つねに先読みをして
「品質」を守る。

現在も進行中の横浜駅周辺の再開発プロジェクト。
その一環として、隣接するビルのリニューアルや
駅地下の中央通路と商業施設を結ぶ連絡通路のバリアフリー化、
西口のファサード整備などが行われた。
この大規模な改修工事に工事長として携わったのが渕之上さんだ。

横浜工事事務所 工事長
渕之上敏郎
Toshiro Fuchimoue


宮崎県都城市出身
1993年入社

渕之上さんが松下産業に入社したきっかけは?

学生の頃、夏休みに研修させてもらったんです。泊まり込みで二週間くらい、新築の現場を見学したり、いろいろ体験させてもらって。

インターンみたいな感じですね。

そのときに「あったかくて、アットホームな会社だなあ」と感じて、それで入社したんです。

渕之上さんは横浜地区の現場が多いんですか?

基本的に地区事務所が長いですね。私の場合は改修工事の現場が多いので、いわゆる定置事務所と呼ばれる中長期にわたる仕事場になります。

改修工事とは?

既にある建物や施設の改修ですね。たとえば、駅の増築や駅通路の整備、近ごろでは駅周辺の商業施設やオフィスの改修なども手がけています。

商業施設の改修工事もあるんですね。

はい。テナント店舗が入れ替わるときや、フロアごと大規模にリニューアルするときなど、いろんな規模の改修工事があります。

改修工事で気をつけているポイントは?

ビルとしては通常営業しているので、利用者の方や環境に影響を及ぼさないことが第一です。注意しないといけないのは、埃・音・火気・匂い。それと配線ですね。万が一にも誤って断線してしまったら、フロア全体に影響が出ますから。

工事する時間帯は夜間になるんでしょうか。

21時まで営業している施設だったら、その後からの工事になりますね。21時過ぎに朝礼をやって、そこから朝の4時~5時くらいまで工事に入ります。

現場には何人くらいの作業員が入るんですか?

それは工事の規模によります。施設自体の大規模改修だったら、一日に200人くらい現場に入ったりしますよ。

200人! そんなに多くの人が働いているんですね。

なので、まずは職人のみなさんに施設や工事のルールを分かってもらうことからスタートするんです。入館の仕方からはじまって、仮設トイレの使い方や、電源の取り方、現場によっては通ってはいけないルートもありますから、そういった細かい決まりを共有して、しっかりと守ってもらわないと。夜間工事であれば、たいてい翌朝から通常営業になるので、それまでには作業を終わらせて現場もきれいに片づけておく。商業施設の改修の場合は、工事そのものだけでなく、まわりの環境への配慮も欠かせません。

改修工事ならではの気づかいが必要なんですね。

たとえば、改修現場の天井にダクトがあるとします。それは当然どこかにつながっているわけで、そのまま工事したら、思いもしない場所から粉塵が出ちゃうかもしれない。そうならないように、この箇所とこの箇所を塞いでおこう、などあらかじめ指示を出したりもします。

事前に分かるものなんですか?

そのへんは経験ですね。あとは気の使いようというか、想像力も必要になってきます。地下工事の音が10階まで響いてしまったりすることもあるんです。なのでやっぱり、建物の構造を把握しておいて、作業がどういった影響を及ぼすのかイメージできないといけないんです。

まさに経験値と想像力ですね。

新築工事は設計図がありますけど、改修工事の場合はくわしい図面が無い場合も多いんです。配線図があっても「だいたいこのあたりに通ってるかな」くらいの感じなんで。

それはどう対応するんですか?

事前にX線を使ってレントゲン撮影します。コンクリート壁の中の配管や鉄筋、配線の位置なんかをチェックしてから着工するわけです。

まるで発掘現場みたいですね。

「発掘と発見」ですね。改修の現場では当たり前のプロセスになっています。

改修工事ならではのノウハウがあるんですね。

新しくシャッターを設置するような場合、シャッター自体の製作期間もスケジュールに織り込んでおかないといけない。壁や天井を剥がす前に建具をつくる段取りをしておかないと、全体の工程に乗ってこないですから。だからといって、ろくに調べずに発注したら、いざ現場で取り付けようとしたら収まらなかった、なんてことが起こりかねない。そんな事態を防ぐためにも、現地調査で天井にシャッターとその機構が収まるスペースがあるかどうか、事前にきちんとくわしく調べておく必要があるんです。

なるほど。

やっぱり先読みしないと。そのあたりは改修慣れしていくに従って身に付いていくと思いますけどね。

改修特有の難しさですね。

新築工事は設計図に則って進められるから、前もって段取りができる。でも改修工事は、いざ開けてみたら想定と違ったりすることがままある。場合によっては、事前に用意したものが通用しないこともある。そこが改修の怖さですね。万が一建具を取り付けられなかったら工期にも響くし、費用にも影響が出るので。だからこそ「先読みする力」が求められるんです。

古い建物の場合はどうですか?

建物の躯体なんかも注意深くチェックします。建てられた年代によって状態が違ったりするので。仕上げを剥がしてみたら、コンクリートにジャンカと呼ばれる「す」が出ていたり、鉄筋が露出してしまっていることもあるんです。建物の構造に関わるので、こういった問題を発見したら、かならず建物のオーナーに報告してどう対応するのか相談しています。

メンテナンス的な領域も含まれるんですね。

改修は建物を「内側」から見つめなおす工事でもありますからね。

そのほかに心がけていることは何ですか?

「品質」ですね。今も言ったように、日々の現場で建物を内側から見ていますから。やはり自分が携わるのであれば、建築としての品質をきちんと保ったものをつくりたい。国交省から出ている「公共建築工事標準仕様書」などを何度も読み返して、基礎的な強度や施工方法についての情報もアップデートしつつ、つねに「品質」にこだわって取り組んでいます。

改修工事のやりがいはどのあたりでしょう。

そうですね…自分の関わる領域が広いところでしょうか。新築だと、営業がいて、設計がいて、工事部があって、それから現場になるのですが、改修の場合は顧客とダイレクトに向き合うことが多い。まずは先方の「こうしたい」という希望を受けとめて、それに対して「こんな方法があります」という提案をして、見積りをつくって、それから工事を進めていく。規模にもよりますが、改修工事であればワンストップでそこまで関わることができます。

かなりの範囲を受け持つわけですね。

もちろん設計者が入るような専門的な領域もありますが、ある程度までは、自分の知識と経験をもとに、調整して・提案して・現場を動かす、というサイクルを回していくことができる。そのあたりは、やりがいとしてはあるかもしれないですね。

ひとりの中で完結していると。

そのぶん責任も重くなりますけどね。でも「自分でやってる感」は出てくると思います。

部下にアドバイスしたりはするんですか?

受注した仕事の現場であれば、個々がそれぞれに工夫して、自分なりのやり方で進めてほしいんですね。ただし、当たり前ですけど工期と予算は守らないといけない。現場は人が動いたらお金も出ていくわけですから、そこはつねに意識してほしい。現場を動かすということは、お金を動かしているということでもある。工程だけでなく予算まで含めて全体をマネージメントしていくのが現場管理の役割なんです。

知識と経験だけでなく、マネージメント能力も大事なんですね。

工程と予算、その両方をトータルで見て判断していく。ものづくりとビジネスとしてのバランス感覚。そういった意識を若い人たちが持ってくれるといいな、と願っています。